「トラウマ=特別な人の特別な体験」ではありません。
「トラウマ」と聞くと、戦争や事故、災害といった極端な出来事を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、トラウマとは決して“特別な人”だけが経験するものではありません。
例えば、学校でのいじめ、大切な人との突然の別れ、長期間にわたる家庭内の緊張状態、DVや性被害、育児における孤立…。こうした身近な出来事でも、心の深い部分に傷を残し、日常生活に影響を及ぼすことがあります。
トラウマとは「処理しきれなかった経験」
トラウマとは、脳と身体が適切に処理できなかった“圧倒的なストレス体験”のことを指します。
通常、私たちはストレスを受けると、感情や記憶を統合し、時間の流れの中に収めていきます。しかし、トラウマとなる出来事はあまりに衝撃的で、記憶や感情が“現在進行形”のまま脳に残ってしまうのです。
その結果として──
- 突然記憶がよみがえる(フラッシュバック)
- 感情が麻痺して無感動になる
- ちょっとした刺激に過剰に反応する(過覚醒)
- 身体症状(不眠・頭痛・吐き気など)が現れる
といった反応が、後になって起こることがあります。
「弱いからトラウマになる」のではない
トラウマ反応が起きるのは、“その人が弱いから”ではなく、“その出来事が強烈すぎたから”です。
むしろ、その状況下で生き延びるために、脳や身体が「防御反応」として起こした適応反応とも言えます。だからこそ、トラウマ反応を「病気」や「失敗」として恥じる必要はまったくありません。
見えにくいトラウマ:「複雑性トラウマ」や「関係性のトラウマ」
一度きりの激しい出来事によるトラウマ(単回性トラウマ)とは別に、長期間にわたる継続的なストレスによって生じる「複雑性トラウマ(C-PTSD)」という概念もあります。
特に、幼少期に親からの暴言や無視、過干渉、暴力を受けた体験や、親が精神的・物理的に不在だった環境で育ったことも、深い心の傷となり、大人になってから生きづらさの原因となることがあります。
こうしたトラウマは、本人すら気づかないまま「人と深く関われない」「すぐに自分を責めてしまう」「突然涙が出てくる」などの形で現れることもあります。
回復は可能です
トラウマは、「適切な理解と支援」があれば、少しずつ癒し、統合していくことが可能です。
カウンセリングやトラウマに配慮した心理療法(例:EMDR、センサリーモーターセラピー、ソマティック体験など)を通じて、脳と身体が“あのとき”から“今ここ”へと安全に戻ってくる体験を重ねていくことが、回復のプロセスになります。
もしあなたが「なぜかわからないけど生きづらい」「自分だけ取り残されている気がする」と感じているのなら、それは過去のトラウマのサインかもしれません。そしてそれは、支援によって変えていけるものです。